『チャーメインと魔法の家』(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

「空中の城」シリーズの第3巻。魔法使いの大おじさんの家の留守番を任された少女チャーメインがやっかいな騒動に巻き込まれる話。おなじみのハウルの一家や、人間に卵を産み付けて邪悪な子供をつくる危険生物がからんできて、DWJらしいわさわさした話になっていきます。
ヒロインの造形がすばらしいです。彼女は箱入り娘で育ったので、実用的なことはなにもできません。できるのは本を読むことだけ。ただし王宮の図書室で働きたいという野心は持っていて、そのために手紙を出すという方面にだけ行動力を発揮します。大おじさんの家に行って早速手詰まりになったとき彼女がどうしたかというと、

どうしたらいいかわからなくなったチャーメインは、困ったときにいつもしてきたことをしよう、と思いつきました。――本を読んで、他のことは忘れちゃえばいいんだ。(p26)

救いようのない人間のクズです。本好きの読者がいいあんばいに親近感と近親憎悪を感じられるキャラクターになっています。このあとチャーメインは、母親に用意させた荷物の中に本がないことを知って絶望してしまいます。
しかし、作品世界は彼女のようなダメ人間に優しくできています。困ったことが起きると大おじさんの声が聞こえてきて、いろんな情報や魔法を教えてくれるという親切設計。ダメ人間でも魔法(テクノロジー)の恩恵に浴すればそれなりに快適に生きていけるという、実に楽観的な世界が描かれているのがよいです。