『みんなの家出』(藤田のぼる)

みんなの家出 (福音館創作童話シリーズ)

みんなの家出 (福音館創作童話シリーズ)

小学4年生のフミは、夏休みの読書感想文用に『どっちが家出?』という本を図書館で借ります。本には、塾へ行く電車を乗り過ごしてプチ家出する話と、いつか家を出るために地道に家事の練習をする話が載っていました。このふたつの家出のうち、どっちが本当の家出なのか判断できなかったフミは、作者の熊田文子に手紙を出して回答を求めるという反則技に出てしまいます。しかも、作者からの返事を自由研究の材料にして、一気にふたつの宿題をでっちあげようというとんでもない悪巧みをします。
一方、手紙をもらった熊田文子は、執筆時と今の自分の見解が変化したことに気づきます。このことにより、作者の権威を剥奪したかのように装っているのがこの作品の巧妙なところです。ついでに大人の権威も引きずり下ろします。介護施設と家のどちらにも違和感を持つ熊田文子の母親の家出、フミの先生の、実家からの独立という家出、フミの友達の家出など、様々な家出が作中に登場します。子供と大人を同じ地平に立たせて家出の意味について考察を深めていきます。
作中作と作中の家出のリアリティのレベルが変わらないので、読者は自分の立ち位置をつかみづらくなり、妙な浮遊感を味わわされます。これが変によい味わいになっています。なぜか登場人物を鶴と亀として描いている早川純子のイラストも奇妙にはまっていて、全体的にとらえどころのない不思議な本になっていました。