「迷宮ヶ丘」(日本児童文学者協会/編)

偕成社のホラーアンソロジーです。収録作の中から面白かった作品をいくつか紹介します。

一丁目 窓辺の少年 (迷宮ヶ丘)

一丁目 窓辺の少年 (迷宮ヶ丘)

「もうひとりの自分」(加藤純子

パラレルワールドタイムリープ、ドッベルゲンガーという、アイデンティティの不安全部入りといった感じの作品です。

「はざまの図書館」(河合二湖)

電車を乗り過ごすと行ける不思議な図書館に迷い込む話。教育的な児童文学では、癒しや成長の契機としなければ「逃避」を描くことができません。しかし河合二湖は、「逃避」することそれ自体の豊かさを描ける才覚を持っているようです。ぜひこの路線をきわめてもらいたいです。

ニ丁目 百年オルガン (迷宮ヶ丘)

ニ丁目 百年オルガン (迷宮ヶ丘)

「天までの距離」(佐藤佳代)

人間の手の甲にデジタル表示の数字が見えるメガネを拾った少年の話。死神との戦い(と敗北)という古典的なフォーマットを、現代的な感性で処理したスマートな作品です。

「なかったこと」(ばんひろこ)

無能な人間は人々から文字通り忘れ去られてしまう世界の話。ストレートに怖いです。

三丁目 消失ゲーム (迷宮ヶ丘)

三丁目 消失ゲーム (迷宮ヶ丘)

「不思議駄菓子屋」(廣嶋玲子)

怪奇現象なんか全然怖くありません。給食を取り上げて空腹感で相手をいたぶるといういじめの手口が怖すぎます。

「消失ゲーム」(田部智子)

人から不可解な好意を持たれることの薄気味悪さが描かれています。

四丁目 身がわりバス (迷宮ヶ丘)

四丁目 身がわりバス (迷宮ヶ丘)

「スモークツリーの花のあと」(高田桂子)

化け物から病弱なきょうだいへの憎しみを煽られ、呪いをかけるように誘惑される話。話としてはありがちですが、誘惑してくる化け物の得体の知れなさが尋常ではありません。スモークツリーの木の下に出没する、妹を9人も引き連れた化け物。なんなんですかこれ。

五丁目 瓶詰め男 (迷宮ヶ丘)

五丁目 瓶詰め男 (迷宮ヶ丘)

「世界を救うゲーム」(藤野恵美

課金すると「実際の世界でも困っているひとのために」寄付できるという、携帯電話のゲームにはまってしまった少女の物語。母親にしかられて課金できなくなると、ゲームは別のものを要求してくるようになります。
藤野恵美は倫理性が高すぎるあまり、まれに偽善者に猛毒を吐くことがあります。代表例は日本児童文学2007年1,2月号に掲載された短編「走れ、脂身」です。この作品も毒が強く、善行などソーシャルゲームと同じで、お金と人生を空費するものであるということを暴き立てています。