『オズのブリキのきこり』(ライマン・フランク・ボーム)

オズ12巻。ブリキのきこりが、さすらい人のウートを相手に身の上話を語るところから、物語は始まります。
きこりには以前、ニミー・エイミーという恋人がいました。彼女は東の魔女の奴隷でした。二人の交際をよく思わない魔女はきこりの斧に呪いをかけ、斧がきこりの右足を切り落としてしまいます。きこりは友人のブリキ職人クー・クリップにブリキの足を移植してもらいます。しかし魔女の呪いできこりの体は次々と切り落とされ、そのたびにブリキの体に取り替えてもらい、最終的にすべてブリキになってしまいます。
しかしニミー・エイミーのきこりへの愛は変わりません。「あなたは、最高のだんなさまになるわ。ごはんを食べないから、わたしは食事のしたくをしなくてもいいし、ブリキの体はつかれてねむることもないから、ベッドをととのえなくてもすむでしょ。(中略)そしてあなたが一日じゅう森で木を切っているあいだ、わたしは自分の楽しみを見つければいいのだもの」と、なにかがおかしいような気がしないでもないフォローを入れます。ところがきこりは心臓を失ったため人を愛する心も失ってしまい、ニミー・エイミーのことなどどうでもよくなってしまいました。きこりはそのことを薄情だとウートに指摘されて、ウートと親友のかかしとともにニミー・エイミーを探す旅に出ることを決意します。
オズの中でもSF要素が強く難解な作品になっています。ブリキのきこりの数奇な運命について結末まで説明してしまいましょう。
きこりは旅の中で、自分とそっくりのブリキの兵隊と出会います。ブリキの兵隊はきこりがいなくなったあと、ニミー・エイミーを好きになり、きこりとほとんど同じ経緯でブリキ人間になります。きこりがブリキ職人クー・クリップの家に行くと、戸棚の中に自分の首を発見します。首には心臓は付いていないので愛がわからず、ずっと戸棚に閉じ込められてしたのですっかり陰気な性格になってしまっていました。さらに、クー・クリップは、きこりと兵隊の体を混ぜ合わせてひとりの合成人間チョップファイトを作ったことを告白します。クー・クリップのマッドサイエンティストっぷりがやばいです。ここで、きこりはブリキと首と合成人間の三体に分裂してしまったことがわかります。彼のアイデンティティはどこにあるのか、まったくわかりません。
物語のラスト、ニミー・エイミーを見つけ出すと、彼女はすでに合成人間と結婚していたという衝撃のオチになります。でもきこりはショックを受けることなく、親友のかかしと過ごす日常に戻っていきます。