『夜はライオン』(長薗安浩)

夜はライオン

夜はライオン

少年野球のエースで次期児童会長、女子にもモテて、「選ばれてあることの恍惚と不安と二つわれにあり」という言葉を自分のことだと思っているいけすかないガキ……ではなく、ご立派な少年が主人公。ところがこの少年、木村雅彦にはひとつだけ他人にはいえない秘密がありました。それは夜尿症。修学旅行でおもらしをしたら今まで築きあげた地位が崩れ去ってしまうということが目下の悩みで、ひそかにあれこれと対策を講じます。
悩みを抱える子どもに対する大人の無神経な態度の描写にリアリティがあります。特に、図書館で夜尿症の本を探す雅彦に、まったく悪気を持たずしつこくからんでくる図書館職員のむかつくこと。そんな大人に対して「死ね」という言葉でストレートに憎しみを表現させているところも、子どもの共感を呼びやすいのではないでしょうか。
この作品の肝は、雅彦のオリジナルの夜尿症対策です。彼の考えた対処法は、修学旅行で徹夜すること。眠くならないようにするためにコーヒーを飲もうと思いつきます。しかし苦いコーヒーは飲めないので、毎日缶コーヒーを飲んで甘いのから慣らしていくように努力します。コーヒーに利尿作用があるとも知らずに。
同時に、膀胱を大きくするために水を飲みまくるという苦行も行います。
彼のおねしょ対策は、おバカな小学生の忍者になるための修業と同レベルの稚気を持っています。雅彦は一見優等生に見えますが、前作の『最後の七月』の主人公たちと同じように、ただのおバカな小学生でしかないという一面も備えているのです。こういったおバカな男子の世界を描ける作家は貴重ですから、長薗安浩にはこれからもがんばってもらいたいです。