『海底大陸』(海野十三)

海底大陸 (パール文庫)

海底大陸 (パール文庫)

最近、書店の児童文庫棚の一角に魔窟ができました。教科書ガイドや学習参考書を主に出している出版社の真珠書院が、なにを思ってか刊行したパール文庫のコーナーです。21世紀の子供の本に交じって、海野十三小酒井不木らによる大昔の児童向け娯楽小説が、異様な存在感を放っています。そのイラストを代々木アニメーション学院の学生に担当させるという冒険心もなかなか。実際手に入れた今になっても、現在の出版事情でこんなに愉快な本が出ていることが信じられないような気分です。
その第1回配本の1冊が、日本SFの祖である海野十三の『海底大陸』です。英国の豪華客船クイーン・メリー号が、不思議なサケの大群に遭遇したのち行方不明になります。ひとり難を逃れたボーイの三千夫少年は、フランスの汽船ルソン号に拾われ、船長のエバンや英国警視庁一の名探偵スミス警部とともに失踪事件の謎に挑むことになります。時を同じくして、大西洋に潜水艦のような謎の物体「鉄水母」が現れたり、日本人の学者長良川博士が海底にアトランティス大陸の痕跡を発見したりと、怪現象が続きます。やがて人類は、海底超人とのファーストコンタクトを果たすことになります。
おおげさな煽り。探偵や博士が振りかざす大胆な超絶理論。怪現象は宇X線で説明してしまう豪快さ。これこそが児童向け娯楽SFです。
パール文庫の「刊行のことば」には、「その頃の「本」は、今のように精緻でもなければ、科学的でもない。きわめていい加減だ。でも、不思議なことに、なんとなくのどかでほのぼのとして、今のものとは違うおおらかさがある」という、ほめているんだかけなしているんだかわからない一節があります。そういったおもしろさは、今の子どもにもきっと伝わるはずです。