『6人のお姫さま』(二宮由紀子)

6人のお姫さま

6人のお姫さま

二宮由紀子という作家は、物語という枠組みそのものに憎しみや悪意を持っているのではないかと思うことがあります。彼女の作品はしばしば停滞したり、巻き戻されたり、脇道にそれたりします。それがもっとも顕著なのが、「ハリネズミのプルプル」シリーズでしょう。この作品の登場人物はみな記憶障害を抱えているので、物語を進行させることが不可能になっているのです。
この『6人のお姫さま』という作品も、一筋縄ではいきません。お姫さまと王子さまと魔女が登場人物にそろっているので、魔女が姫に呪いをかけ、王子が救出するという物語が成立しそうですし、語り手もその方向に誘導しようとします。しかしお姫さまと王子さまはそれぞれ6人ずついるのに、誰ひとりやる気がなく、朝寝坊ばかりする怠惰な生活を送っていました。
さらに問題なのは魔女です。魔女は17人もいるのに役立たずばかりで、6人に呪いをかけるだけの力を持っていませんでした。これでは話は始まりません。
そもそも、語り手にやる気がないのが一番の問題です。なにしろこの語り手、お姫さまの名前もきちんと覚えていないのですから、救いようがありません。
まったく先が読めないアナーキーな世界を楽しめる作品になっています。