『クサヨミ』(藤田雅矢)

クサヨミ (21世紀空想科学小説 3)

クサヨミ (21世紀空想科学小説 3)

日本SF作家クラブ創立50周年の企画「21世紀空想科学小説」の第2回配本。寡作の鬼才として知られる藤田雅矢の待望の長編です。
中学校に入学したばかりの方喰剣志郎は、部活の選択で悩んでいました。グラウンドの片隅で雲や草花を見てぼんやりしていると、雑草クラブの顧問の梅鉢先生からスカウトされます。活動場所の理科準備室に行って、ただひとりの部員希林先輩に会うと、「あなた、何が読めるの?」と意味不明なことを聞かれ、話がかみ合いません。詳しく話を聞いてみると、雑草クラブは植物と交感できる超能力者をひそかに集めていて、国際的な秘密結社とも関わりがあるらしいということがわかってきました。剣志郎は雑草クラブに入り超能力の開発をするうちに、タラヨウの木が伝える学校の火事の記憶に引き込まれていきます。
超能力に秘密組織という、往年のジュヴナイルSFテイストの道具立てが楽しいです。藤田雅矢らしい博物学趣味も健在で、草花に関するうんちくもたっぷり語られます。悠久の時間を生きる植物の世界に共鳴して、作中にはゆったりとした時間がたゆたっています。その一方で短い時間を生きる人間のせわしなさも織り込まれており、独特の時間の感覚を味わうことができます。
こうして人間の世界と植物の世界を交錯させることで、この世界の不思議さ、美しさが、強い実感を伴って浮かび上がってきます。子ども向けのSFはこうであってほしいというお手本のような作品でした。