『怪奇人造島』(寺島柾史)

怪奇人造島 (パール文庫)

怪奇人造島 (パール文庫)

大昔のエンタメを現代によみがえらせた不思議なレーベル、パール文庫の第2回配本の1冊です。
冷凍船虎丸のボーイ山路健二少年は、この船が実は千島の無人島でラッコを密猟するどろぼう船で、自分たち東洋人の雑役夫はこき使われたのち証拠隠滅のため殺される運命にあることを知り、生き残るために戦うことを決意します。ここまででたった4ページ、展開の早さにめまいがします。このあともこのペースで話が進んで、息つく暇を与えません。
「こうして、祖国の領海が、白人密猟者のために、さんざ荒らされるのを傍観して、ぼくは、思わず、腕を扼し、義憤の涙に瞼を濡らすのだった」と、健二少年の怒りようは激しさを極めています。そして「僕は、最後の手段として、火薬庫に忍込んで、日本の領海を荒らし廻るこの船を、一挙に爆破してやりたいくらいだ」と、自爆攻撃まで考えてしまいます。大日本帝国の少年は血の気が多くて困ったものです。
さて、なんやかんやあって健二少年は船から脱出しますが、今度は人造氷山に拾われます。これは海上のどこにでも飛行機の発着場を建造でき、必要なくなったらすぐに溶かして消すことができるという、おそるべき軍事施設でした。ここでも健二少年は戦いに巻き込まれます。
この作品には人工氷山ともうひとつSF的な大ネタが出てきますが、それが主役にならずに、あくまで海洋冒険小説の味付けとしてしか使われていないというのがなんとも贅沢です。新しい古いは関係なく、娯楽読み物として非常に優秀です。
もちろん、今日的な観点からは不適切な点もあります。科学礼賛が軍国主義に直結していますし、ドイツ人科学者が持ち上げられているのも、当時(初出は1937年)のドイツの政権や日本との関係を考えるとどうかと思います。しかし、時代の空気が娯楽小説にこのような影響を与えるということを知っておくのも必要です。