『わらうきいろオニ』(梨屋アリエ)

わらうきいろオニ

わらうきいろオニ

いま学校で苦しんでいる子どもがただちにすべきことは、逃げることです。しかし、「逃げろ」というメッセージを送られただけで逃げることができるなら、こんな簡単な話はありません。異質なものを排除することを是とする世界が「ふつう」とされているのが現実ですから、その「ふつう」を捨て去るには大きな覚悟が求められます。
では、そういう子どもたちに対して文学は無力なのでしょうか。そんなことはありません。たとえばこの梨屋アリエの新作『わらうきいろオニ』は、苦しんでいる子どもに的確に手をさしのべる内容になっています。
山奥に住んでいるきいろオニは、友達をつくるために人間の学校に入ろうとします。しかしきいろであることを笑われ、自虐ギャグに走って受け入れてもらおうと試みてもうまくいかず、学校を追放されます。そして、坂道を転げ落ちていくきいろオニ。

「わっはっはっ。ぼくなんて、もう、どこまでもころがってしまえばいい。わっはっはっ。ずっところがりつづけて、ぼくがいなくなったって、だれもかなしむ人はいないだろう。わっはっはっ……。」

ここまで非常に鬱な展開が続きますが、転げ落ちた先にはむらさき色のオニや水玉模様のオニ、あまのじゃくなど規格外の存在が跋扈していて、重苦しい空気が一気に解放されます。
梨屋アリエは坂の下の世界で、逃げるための理論と、逃げた先のビジョンを具体的に提示しています。その具体性が、子どもを救う力となっています。