『リョウ&ナオ』(川端裕人)

リョウ&ナオ (飛ぶ教室の本)

リョウ&ナオ (飛ぶ教室の本)

飛ぶ教室」に掲載されていた連作の単行本化。リョウは、一緒にロボットを作ったりして仲良く過ごしていたいとこのナオを亡くしてしまいます。中学生になったリョウは「GeKOES」という国際的なエリート養成プログラムに選抜され、そこでナオにそっくりのナオミという金髪少女と出会います。「GeKOES」に選ばれた子どもたちは世界中を飛び回り、オランウータンを追いかけたり、水を運んだり、ミイラを掘り出したりと、さまざまな体験を積んでいきます。
広い世界を舞台にした冒険があったり、頭のいい子どもたちが熱のこもった議論をする場面があったりするのですが、作品世界は静謐な空気に包まれています。それは、主人公のリョウの抱える罪悪感や後ろめたさに起因するものなのでしょう。
それは死者に対する後ろめたさであり、発展途上国の人々に対する後ろめたさでもあります。リョウは自分は優秀だったナオの代わりに「GeKOES」に選ばれたのだという疑いを持ち続けていました。さらに発展途上国で自分よりはるかに優秀な人間と出会ったりして、自分の小ささを知ります。リョウは特権的な立場にいますが、それを手にしたのは偶然に過ぎなくて、いくらでも取り替え可能であるということを自覚しているのです。
社会の中でいかに生きるべきかという問題をストレートに問いかけているという意味では、最近ではめったに見ないタイプの骨太な作品です。また、川端裕人らしく理系的な興味から世界の奥深さに導いていく面もあり、非常に読み応えのある作品になっていました。