『クレヨンマジック』(舟崎克彦)

クレヨンマジック (おはなしのくに)

クレヨンマジック (おはなしのくに)

舟崎克彦出久根育。なぜ児童書はこうも、〈まぜるな危険!〉な組み合わせに手を出したがるものなのか。トラウマ童話の愉快な仲間に、またも強力なメンバーが加わりました。
1982年に佑学社から出た作品に補筆し、画家を出久根育にしてリニューアルした本です。

もし、きみが たいくつをしていて、どこかへ いこうにも 雨が ふっているから、出かけるのも めんどうくさくって、でんわをかけるにも ともだちが いなくって、あるいは ともだちが いても、その子に でんわなんかする気に ならないようなときには どうしよう。 
いいことを おしえてあげましょうか。

このように怪しい語り手が〈きみ〉に語りかける形式で物語は進みます。この本を読んだ子どもは、このように猫なで声で呼びかけてくる大人は信用してはいけないということを学べることでしょう。
語り手は〈きみ〉に、紙飛行機を作るように指示し、こうのたまいます。「え?/かみひこうきのつくりかた しらないの?/サヨナラ。/そんな子とは、あそんであげません。」ところが、次のページで図解付きで紙飛行機の作り方を教えてくれます。ここで親切な人だと思って警戒を緩めてはいけません。落としてから優しくするのは、DV加害者がよくやる手口です。
〈きみ〉はやがて巨大なクレヨンの柱が無数に立っている神殿のような広間に招かれます。その柱の陰から、人間大のクレヨンが現れるのです。そしてクレヨンたちに囲まれ、彼らの願いを叶えるように脅迫されます。この場面のイラストが怖いのなんの。
しかし、本当に怖いのはクレヨンたちではなく〈きみ〉の方でした。〈きみ〉はある手段でクレヨンたちが集団自殺するように仕向け、危機を逃れます。ここには死に向かう狂気しかありません。