『何かが来た』(東野司)

何かが来た (21世紀空想科学小説 2)

何かが来た (21世紀空想科学小説 2)

「21世紀空想科学小説」の第1回配本の1冊。〈評議会〉と呼ばれる支配者階級と労働者階級が分断された生活を営んでいる地域で、子どもたちを取り残して大人だけがまるで別の何かと入れ替わったかのように変容してしまうという怪事件が起こります。
親しい人間が別人になってしまったように感じるカプグラ症候群めいた恐怖譚に初めて触れたときの衝撃は、物語を愛する人間なら誰しも鮮明に覚えていることでしょう。『何かが来た』で初めてこのタイプの物語に触れる子どもも、忘れられない幸福な体験を得ることができるはずです。
内容については多くは触れません。中盤の怒濤の設定説明から美しい終局、さらに美しい終幕までの流れが圧巻であったということだけは保証しておきます。
ジュヴナイルSFとして優れているのはもちろん、作品世界の設定から社会派児童文学としても見逃せない作品になっていました。