『馬賊の唄』(池田芙蓉)

馬賊の唄 (パール文庫)

馬賊の唄 (パール文庫)

パール文庫第5回配本は、国文学者池田亀鑑(芙蓉はペンネーム)の冒険小説です。カバーイラストがいいですね。剣を持った少年と銃を構えた少女に、咆吼するけだもの。話の内容は予想できませんが、なんとなくおもしろそうな雰囲気は伝わってきます。
行方不明の父親を捜すため、愛馬西風と獅子稲妻をしもべにして大陸を駆け回る山内日出男少年の物語です。自称「弱きを助け、邪なるを正す人道の守護神」の日出男少年は、おそいかかる悪者をばったばったとなぎ倒していきます。
風景描写が情感たっぷりで、時々文語調の美文になるところが楽しいです。こんな具合。

紅の花の如く曠野をそめていた落日の影はすでに消えてしまった。大陸の山々は幽然たる暮色の中に包まれてしまった。

無駄にポジティブで好戦的な主人公の性格は、いかにも当時求められていた日本少年像といった感じで、なじみにくいです。しかし、頭をからにして楽しめる単純なストーリーには、いまの児童文学ではなかなかみられない魅力があります。
あとがきによると、今回収録されなかった後半部分では、高畠華宵による湖水に潜む耳の大きな大怪獣のイラストが拝めたとのこと。話の内容より絵の方が気になりますね。