『思い出のマーニー』(ジョーン・ロビンソン)

思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)

思い出のマーニー〈上〉 (岩波少年文庫)

思い出のマーニー〈下〉 (岩波少年文庫)

思い出のマーニー〈下〉 (岩波少年文庫)

ミセス・プレストンは片手をアンナの体にまわして、さよならのキスをしました。こうすることで、アンナが、"あたたかく安全に守られ、大切に思われている"と感じてくれるように願いながら。
けれども、アンナには、ミセス・プレストンがそう感じさせようとしてそうしているのがわかりました。――やめてくれればいいのに――と、アンナは思いました。

冒頭の場面、読者には登場人物の状況がまったく説明されていませんが、アンナという少女がどういう子なのかということだけは、明確にわかるようになっています。疎外感を抱えた子どもを描いたイギリス児童文学の名作、それが『思い出のマーニー』です。
決して「内側」に入ることができずに、人々の輪の「外側」にいる少女アンナ。他人から興味を失われたときはいつも、自分から相手を嫌うことにして、無表情でひややかな態度を貫いていました。
そんなアンナがしめっ地やしきで不思議な少女マーニーと出会い、別れ、ひとつの人々の輪の中に組み込まれていくまでが描かれています。
アンナはすでに完結した物語に巻き込まれることで、人々の輪の中に参入します。その物語はまったく幸福なものではなく、不幸と失敗の連続によって成り立っています。そこがかえって救いになっています。
マーニーのほかにも、魅力的な人物が登場します。特に印象に残るのは、リンゼー氏です。

(リンゼー氏は)自分が”ほっとかれる”ことを気にしないということについても、まったく、まじめで、本気でした。実際のところは、どうやら、ほっとかれるほうが好きなようでした。

この大人像は、アンナのような非社交的な子どもにとって、よいロールモデルとなっています。