『山賊のむすめローニャ』(リンドグレーン)

山賊のむすめローニャ (リンドグレーン作品集 (19))

山賊のむすめローニャ (リンドグレーン作品集 (19))

ローニャが生まれた夜、山の上には雷がとどろいていました。ええ、ほんとにすごい雷の夜だったので、マッティス森にすんでいる、あやしいものたちもみんな、ふるえあがって、めいめいの穴や隠れ場にもぐりこみました。

物語は、ローニャの出生の場面から始まります。山頂の古城を根拠地にするマッティス山賊の跡取りとして、仲間の期待を一身に背負って生まれたローニャを、天候も祝福します。その日に落ちた雷は城を真っ二つに裂いてしまいました。
続く第2章は、ローニャが初めて外の世界にひとりで出て行く場面です。その前が夜の暗い城の場面だったので、無彩色の世界からあざやかな世界への切り替えが印象に残ります。森の木々や花、川のせせらぎを満喫するローニャ。しかし外の世界は美しいものばかりではなく、鳥女や灰色小人といった、人間に悪意を持つ異形の者たちもいるということも知るようになります。
次にローニャが知るのは、他人の存在です。ローニャ誕生の日に裂けた城の片側に、マッティス山賊の宿敵ボルカ山賊が住み着きました。ローニャはボルカ山賊の御曹司ビルクと知り合い、きょうだいの契りを結びます。
やがてふたりは野蛮な親がいやになり、家出を決行します。暖かい季節はいいですが、厳しい冬は洞穴の中で火を焚いて耐えることしかできません。家出で自然の恵みと厳しさを知ったふたりは、親との和解を果たし、次のステージに向かって進んでいきます。
この作品に描かれているのは、自然との関わり、世界との関わり、家族との関わり、他人との関わり、そして、独立して生きていく道です。つまりこの本には、人生に必要なことのほとんどが、贅沢に詰め込まれているのです。