『ずっと空を見ていた』(泉啓子)

ずっと空を見ていた (スプラッシュ・ストーリーズ)

ずっと空を見ていた (スプラッシュ・ストーリーズ)

離婚して父親がいないのに父方の祖母と同居している家庭で育っている小学6年生の理央を中心に、子どもたちの様々な悩みが語られる作品です。
理央の母親は親戚から再婚するように圧力をかけられます。学校では、兄のように親しくしていた幼なじみの真吾が、留年して同学年になるという事件が起こります。真吾は文武両面に秀でていて人望のある子でしたが、思いがけずイレギュラーな存在になってしまい、学校での立ち位置に悩みます。そこに、いかにもわけありそうな転校生まで現れてしまいます。
子どもを親や親戚を背負った存在として扱い、子どもの世界だけでは完結しない濃密な人間関係を描いているところが、最近の児童文学作品としては珍しいです。そのため、周囲の人々の老いや病気の悩みまでもが、子どもにのしかかってきます。
そんな中で、作中人物たちは悩みを抱えた弱い人々の連帯を築き上げています。一方で、その連帯から排除されている一見問題のなさそうな家庭の子どもの異議申し立てもすくい上げられているあたり、非常に目が行き届いています。
あらゆる面で重い作品です。