『日常の夏休み』(あらゐけいいち/原作・絵 伊豆平成/著)

日常の夏休み (角川つばさ文庫)

日常の夏休み (角川つばさ文庫)

アニメ化もされたあらゐけいいちの漫画『日常』の、角川つばさ文庫でのノベライズ版。『日常』の映画版をコンセプトにしていて、いつもの漫画とは一風変わったオリジナルストーリーが展開されています。これが、『日常』としてもできがよく、また質の高いジュブナイルSFでもあるという、得難い娯楽読み物になっていました。
東雲研究所で夏休みの宿題をしていた3人組が、シュレディンガーの猫を応用したはかせの発明で宇宙にとばされてしまいます。彼女たちがとばされた「妖星バラス」(当然『妖星ゴラス』のパロディ)は、願ったものがなんでも出てくるという不思議な星で、ゆっこはインド象を出したり麻衣は弥勒菩薩を出したりとやりたい放題。しかしその妖星バラスは地球に接近しつつあり、世界レベルの危機が訪れます。
世界の危機ではありますが、基本的にこれはコントのための舞台設定として機能しており、みんなでボケたおし、数少ないツッコミ役も迷走するいつもどおりの『日常』の風景が繰り広げられます。非常に忠実に原作の空気が再現されているので、原作ファンなら間違いなく楽しめるはずです。
それでいて、SFとしてもぶっとばしていて驚きを与えてくれます。SFとしての仕掛けは明かせませんが、その豪快さやドタバタ感は、筒井康隆の児童向けSFを髣髴とさせるくらいでした。