『一夜姫事件 お嬢様探偵ありすと少年執事ゆきとの事件簿』(藤野恵美)

「お嬢様探偵ありすと少年執事ゆきとの事件簿」の第6巻。こばとのおじで、オカルト雑誌「月刊レムリア」の記者をしている小太郎が、信州で雪男を追って行方不明になりました。ありすとゆきとも、小太郎おじさんの捜索に巻き込まれてしまいます。ついでに、雪男の出る村で行われる「一日だけのプリンセス」というファッションコンテストにも参加することになります。
このイベントは、1年に1回村の女の子が1人だけ、きれいな着物を着せられおいしい食べ物を与えられお姫さま扱いされる「一夜姫」という伝承にちなんだものでした。こういう話は聞いたことあるような気がしますが、なにか大事なところが省略されているような……。当然ありすがそこに気づかないわけもなく、波乱の予感のなか「一日だけのプリンセス」は開催されます。
やはり注目すべきなのは、『七時間目のUFO研究』の灰原小太郎の再登場です。児童文学にはロールモデルになるようなかっこいい大人に登場してもらいたいものです。夢とロマンの使徒である彼なら、その役割にぴったりです。彼は超常現象を愛しすぎて研究しすぎたため、皮肉なことに超常現象とされているもののほとんどが枯れ尾花であることを見抜いてしまう懐疑主義の精神を手に入れてしまいます。しかし、超常現象に対する愛は変わりません。ロマンと合理主義のどちらかを選ぶのではなく、どちらも取ってしまったのが小太郎です。
合理主義の精神は、嘘やごまかしを許さず正義を貫く、生き方の高潔さにも関わってきます。今回の事件も、そんな小太郎の精神が事態をよい方向に導いていきます。小学生の読者は、小太郎のかっこよさから生き方の指針を得ることができるはずです。
そんな小太郎の陰に隠れて、今回は探偵ありすの活躍が物足りないものに感じられるかもしれません。しかしそれは、このシリーズの宿命です。名探偵という存在を嫌悪し、探偵としてのあり方に悩むありすの姿が執拗に描かれていたシリーズですから、探偵の失墜は必ずいつかは起こるべき展開でした。そして最後は、とうとうあんなことに……。今回も次回への引きが強烈で、続きが楽しみでしかたがないです。