『セバスチアンからの電話』(イリーナ・コルシュノフ)

ゼバスチアンからの電話[新版]

ゼバスチアンからの電話[新版]

ゼバスチアンからの電話 (Best choice)

ゼバスチアンからの電話 (Best choice)

『セバスチアンからの電話』は、1981年に発表された西ドイツYAの傑作です。日本では1990年にいまは亡き福武書店の「BEST CHOICE」から出ていましたが、当然ながら絶版。このほど白水社から同じ訳者で新装版が出ました。
17歳の少女ザビーネは、才気煥発な理系女子でした。しかし、セバスチアンというボーイフレンドができてから変わってしまいます。ヴァイオリンの練習ばかりしているセバスチアンの都合にいつもあわせ、進学の夢を捨ててさっさと職に就き、家族やセバスチアンを支える役割をしようと考えるようになってしまいます。ザビーネは父親にあわせるだけで自分の考えを持たない母親を内心バカにしていましたが、その母親とまったく同じようになってしまうのです。

「わたしは、ひとりで生きているわけじゃないのよ」母が言った。「でも、あなたにはわからないわね。結婚しないことには、ね」
その言葉がわたしの心の奥にまで響いた。
「ママって、ほんとうに救いがたいわね」わたしは言った。「もし結婚がそんなことを意味してるんなら、わたしは、結婚なんかごめんだわ」
(p103)

男性が女性を束縛するための道具が電話(携帯電話ですらなく家電)だというのは、いまの若者からは古く見えてしまうかもしれませんが、恋愛が人をダメにしてしまうというテーマは古びていないので、いま読んでも得るものはあるはずです。
ザビーネの家族は父親の独断で郊外の家に引っ越しさせられます。さまざまな不便を強いられ経済的にも困窮し、父親に隷属的だった母親も我慢の限界に達します。母親は運転免許を取って仕事に出るというかたちで、父親から離れていきます。そんな母親に触発されて、ザビーネも本来の自分を取り戻していきます。自立の道を探る女性の姿が力強く描かれているところが、この作品を傑作たらしめています。
福武書店の「BEST CHOICE」には、このほかにも傑作がたくさん眠っています。この『セバスチアンからの電話』の新装版をきっかけに、再評価が進んでほしいと思います。