『二つ、三ついいわすれたこと』(ジョイス・キャロル・オーツ)

二つ、三ついいわすれたこと (STAMP BOOKS)

二つ、三ついいわすれたこと (STAMP BOOKS)

「STAMP BOOKS」第7回配本は、乙女小説の名手として名高いジョイス・キャロル・オーツの作品です。装丁の乙女力の高さだけで、すでにクラクラしてしまいます。
自由奔放な性格なのに自死を遂げてしまったティンク、傍からはカンペキ美少女に見えるが家庭環境の不遇などに悩み自傷行為を繰り返すメリッサ、ひどいネットいじめの被害者になり男性教師への片思いに救いを求めるナディア。名門校に通う三人の少女の生きづらさが、繊細かつ重く語られます。
名門校に所属する子どもが主人公なので、その親もそれぞれ高い社会的地位を持っています。そして、それがことごとく毒親だというのが厄介です。権力も能力も知性も持った毒親がいかに子どもに重くのしかかってくることか。
ティンクが主役になるパートでは、語り手がティンクに関わる〈わたしたち〉になっています。ここにはメリッサやナディア以外にも固有名を持った少女が含まれるはずですが、それは顕在化されません。群生生物として生きる少女の不気味さ、群れの中に紛れないと身を守れない悲しさが、この手法によってあぶりだされています。