『ゆめの中でピストル』(寺村輝夫)

PHP研究所から1976年に刊行された作品が、復刊ドットコムから復刊。北田卓史のイラストが懐かしいですね。

白いセーターの女の子が、ぼくの三メートルほどむこうに、立ちました。
「カエルのオムレツのちゅうしゃですよ。」
とんでもない。それは、ちゅうしゃなんかではありませんでした。
ピ・ス・ト・ル
ピストルを出してきて、たまをこめているのです。
「このたまをうてば、あなたのゆめが、かなえられるのよ。」
女の子が、ぼくに、ピストルをつきつけました。かくじつに、頭をねらっていました。(p31)

松村雪夫という出版社勤務の中年男性が主人公。高熱を出した彼は夢うつつの中で小人の警官に拉致されます。雪夫を乗せたパトカーは森の中の高速道路を走り、ゆめのくすりを人々に売りつけようとする秘密組織のアジトに到着します。リーダーの女の子にピストルで撃たれて子どもの姿になった雪夫は、ゆめのくすりの売人になります。どこをどう取り繕っても「ダメ。ゼッタイ。」な話です。
「カエルのオムレツ」とか「チョコレートクリーム入りのラーメン」とか頭のおかしいワードが頻出し、寺村輝夫らしい狂気に満ちた世界が楽しめます。一方で、子どもに夢を押し売りしようとする大人に対する強烈な批判が盛り込まれているところも、また寺村輝夫らしいです。