『紫の謎』(松本泰)

紫の謎 (パール文庫)

紫の謎 (パール文庫)

パール文庫第6回配本は、松本泰の少女ミステリです。松本泰は『若草物語』や『あしながおじさん』などを翻訳した松本恵子の夫で、1920年代から1930年代にかけてミステリ作家として活躍していました。江戸川乱歩によると彼の作風は、「長く英国に滞在していた関係から、その作品には多分に異国風の情味を含んでいた」とのこと*1。パール文庫『紫の謎』に併録されている『黄色い霧』もロンドンが舞台になっていて、異国情緒が楽しめる作品になっています。
『紫の謎』は、主人公の吉野友子が聖マリヤ学院を卒業する場面から始まります。ところが、迎えに来るはずの父親がいつまでたっても現れません。校長が隠していた手紙で父親が収監されていることを知った友子は、汽車に乗って東京の刑務所に向かいます。しかし父親と会っても事情はまったくわからず、一見して素人でないことがわかる今まで存在も知らなかった姉と名乗る女に引き取られて、怪事件に巻きこまれていきます。
事件はともかく、この話で一番危ないのは探偵役を務める教誨師の大村進という青年です。彼のやったことをまとめてみると……、

  • 汽車賃が足りなくて切符売り場で困っていた友子にお金を与えて、まずまずの第一印象を得る。
  • 教誨師という立場を利用して、不自然でないかたちで友子を刑務所に案内する。
  • 教誨師という立場を利用して、友子とその周辺の個人情報を収集。
  • 手に入れた個人情報を利用して、友子を助けるヒーロー役を演じる。

なんという天然ストーカー体質。友子と大村青年はどうも恋仲になるようですが、傍から見ていると、探偵は恋人にしてはいけないということがよくわかります。

*1:このあたりの著者についての情報は、論創社の『松本泰探偵小説選1・2』の横井司による解題を元に書いています。詳しく知りたい方はそちらを参考にどうぞ。