『アイとサムの街』(角野栄子)

アイとサムの街 (心にのこる文学)

アイとサムの街 (心にのこる文学)

アイとサムの街 (角川文庫)

アイとサムの街 (角川文庫)

文庫版のカバーイラストがいいですね。小学生の姉妹ふたりで改造自転車に乗って深夜徘徊するという、ちょっとした不良行為のワクワク感がうまく再現されています。都市と住宅街が融合した80年代の風景も懐かしいです。この作品を魅力をうまく切り取った、すばらしいイラストです。
単行本は1989年刊行。活発な発明少女アイと、ゆるふわ文学少女ミイ、性格が正反対のふたごの姉妹を描いた物語です。深夜の動物園でなにかを合図するようにライトが光っていることに気づいたアイは、さまざまなギミックの付いた改造自転車〈ねこちゃん〉を駆使して、その謎を探ろうと奮闘します。謎を解いていく過程で、街の歴史と空間と人が一気につながっていく流れがみごとです。
おもちゃ箱をひっくり返したみたいな作品世界も楽しいです。ドイツで働いている技術者の父に、漫画家のおば、アイの発明に助言を与えてくれる廃品回収業のおっちゃんカメさん、戦後に成り上がった実業家と、脇をかためる大人たちが個性的。そしてなんといっても、改造自転車と、ゲームをつくったりいろいろなデータを編集したりすることができる機械が魅力的です。当時はまだパソコンを自由に使える子どもは珍しかったので、魔法を使っているかのようにみえたものでした。実はパソコンの描写に具体性はないのですが、そこがかえって神秘性を演出していていい感じになっています。