『クラスメイツ』(森絵都)

クラスメイツ 〈前期〉

クラスメイツ 〈前期〉

クラスメイツ 〈後期〉

クラスメイツ 〈後期〉

森絵都久しぶりのYAというふれこみの作品ですが、わたしは『ラン』もYAに含めていいと思います。
それはともかく、森絵都の新作は、北見第二中学校1年A組の24人の生徒が1話ずつ主人公を務める形式の連作短編集です。森絵都がこういう形式を採用した以上、朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』や椰月美智子の『市立第二中学校2年C組 10月19日月曜日』のような胃が痛くなるタイプのシリアスな作品になるだろうと予想していました。ところがふたを開けてみると、まさかの山中恒『六年四組ズッコケ一家』でした。
給食の余り物争奪戦に毎日命を賭けている生徒がいたり、三者面談中に自分はモテないから地道に学歴を付けてから彼女をつくろうという人生設計を考えている生徒がいたり、どうにも手のつけようのない嘘つきの気まぐれ屋がいたりと、いいギャグキャラがそろっています。
ただし、『六年四組ズッコケ一家』だというのはこの作品の一面です。本人がインタビューで話しているように、ある意味初期作品『リズム』『ゴールド・フィッシュ』への回帰で、物語性が薄められたなんでもない日常の話になっているという面もあります。連作短編で1話が短いので、物語性が薄くてもメリハリがきいている読みやすい作品になっており、ありふれた日常の光景がいとおしい印象的なシーンとして記憶に残ります。
作品全体を通してわかるのは、たとえ同じクラスで同じ時間と空間を共有していたとしても、ある生徒は『六年四組ズッコケ一家』的空間を生きていて、ある生徒は『リズム』的空間を生きていて、ある生徒はまた別の空間を生きているということです。そしてひとりの生徒も、あるときは『六年四組ズッコケ一家』的空間にいたり、あるときは『リズム』的空間にいたりと、安定しません。ひとつのクラスの中でもジャンルが混在しているという複雑さ。それをシリアスにしすぎず、すらすら読めるエンターテインメントとして仕上げたのは、さすが手練れの技です。