『黒ずきんちゃん』(稗島千江)

黒ずきんちゃん

黒ずきんちゃん

《とぶものだけが すきじゃなんて……、
それは あんたが じゆうになりたいからじゃわ》
1971年に刊行された作品が、約40年ぶりに復刊されました。まんまるおめめに黒ずきん・赤い服が印象的なイラストは長新太によるもの。こんなインパクトのある表紙をみせられたら、手に取らないわけにはいきません。
ひこうき・鳥・とんぼ・せみ・ちょうちょ、飛んでいるものすべてを愛している小2の少年たかしは、ながさきあげはを追いかけているうちに曼珠沙華の花園に迷い込み、黒ずきんの少女に出会います。そして、上に引用したセリフを言われます。このフレーズは作中何度もリフレインされ、たかしの欠落感や憧れが強調されます。
たかしは「いやじゃね、ちょうちょきちがいは。花の方は、だいじにしてくれんとじゃから。」と花を踏んだことを非難され、おたがいの第一印象は最悪なものとなりました。
やがて、教室に黒ずきんが現れ、彼女は病気のために学校を休学していたナナ子という少女だったことがわかります。ナナ子は不器用なたかしをなにかとさりげなくサポートし、彼の暗黒の学校生活に光明を示します。
宮崎県高鍋の豊かな自然のあざやかな描写と、方言のやさしげな響きがあいまって、居心地のよい作品世界が作り上げられており、しみじみとした感動を与えてくれます。
このような地味な良作が復刊され再評価されるのは、大変喜ばしいことです。