『メランコリー・サガ モールランド・ストーリー1』(ひこ・田中)

メランコリー・サガ (福音館創作童話シリーズ)

メランコリー・サガ (福音館創作童話シリーズ)

巨大なショッピングモールとデパートとオタク街に囲まれた都会を舞台として、クラスのあぶれものグループとしてなんとなく行動をともにすることが多くなったコトノハ、パル、700の小学6年生3人組が活躍する話です。
パルは〈世代間コミュニケーション〉をもくろんでいるらしい父親から、「メランコリー・サガ」というRPGのソフトを渡されます。しかしそのゲームのハードはファミコンとかいう誰も聞いたことのないようなレトロなもので、ソフトだけあってもプレイすることができません。とりあえず3人組はハードを手に入れるために街に出て行きます。
それなりに苦労して手に入れたハードで起動したソフトには、3人組の名前を付けられたキャラクターがラスボス直前にいるデータが入っていました。3人組はこのゲームの発売当時にはあるはずもないweb上の攻略サイトを頼りに、いきなりラスボスに立ち向かっていきます。
パルの父親はゲームという虚構を頼りに〈世代間コミュニケーション〉をはかります。ところがこの父親がとんでもない誤解をしていたことがわかり、またレベルの違う虚構が出現します。
コトノハの父親はかつてギャルゲーで一山当てたことのあるゲームクリエイターで、母親は子どもの本の作家をしています。さらにはオタク街でティッシュ配りをしているメイドさんなど、この作品に出てくる大人は虚構を商売道具にしている人ばかりになっています。事件が終わったあとコトノハは、母親から物語と子どもの違いを聞かされます。

「物語は子どもじゃないわよ。物語は一人では育たないもの。考えて、つけ加えて、削って、捨てるところは捨てて、またつけ加えてのくり返し。手がかかるの。」
(中略)
「子どもは自分で勝手に育つ。コトノハは自分でコトノハになっていく。私、コトノハに手をかけてないでしょ」(p200)

そのあとコトノハが母親の創作法について余計なことを思い出してしまい、読者はまた別のレベルの虚構(現実?)を想像せずにはいられなくなります。
ひこ・田中らしいたくらみに満ちた作品で、虚構が重ねられた作品世界に読者はすっかり煙に巻かれてしまいます。