『クリオネのしっぽ』(長崎夏海)

クリオネのしっぽ

クリオネのしっぽ

背が高くコワモテで、1回だけ頭にきて暴力事件を起こしたことのある美羽は、学校を公立塾だと思ってなにも期待せずに過ごしていました。周りからも敬遠されているので、特にトラブルなく学校生活を送っていましたが、中2の6月という中途半端な時期に転校してきたヤンキー少女サッチに仲間だと思われてなにかとからまれ、やっかいごとに巻き込まれることになります。
美羽は実は文学少女で、ただひとりの友達の唯ちゃんと宮澤賢治の話などをして穏やかな時間を過ごしていました。昼休みの美術室がそんな非社会的少女のアジールになっているのが興味深いです。
一方、ヤンキーのサッチは、反社会的でいろいろトラブルを起こしながらも他人と関わろうとしているので、ある意味体制に従順といえます。美羽はそんなサッチの態度を辛辣に見抜いています。

だけど、きっとサッチは風に流されていく砂じゃいやなんだ。「関係ない人」じゃなくて、「関係したくない人」でも何でもとにかく「関わりたい人」なんだ。あたしは学校なんてどうでもいいから、放っておいてほしいし、煩わしいのはごめんだ。サッチは煩わしいのを望んでいる。――そう考えるとサッチのほうが、学校を好きなのかもと思えた。
え?マジ?そりゃないよね。(p85-86)

そんな非社会的少女と反社会的少女の関わりの中でエス的連帯が生まれていきます。様々な意味で生きづらさを抱えながらも、見えないしっぽを弓にして気高く生きようとする少女たちの姿がさわやかに描かれています。