- 作者: 高科正信,荒井良二
- 出版社/メーカー: フレーベル館
- 発売日: 2014/06/01
- メディア: 単行本
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三年生になった陽子と万寿の担任の先生は作文を書かせるのが大好きで、ぼんやりした万寿はいつも課題に悩まされていました。そんな万寿に早熟な変わり者の陽子が作文の書き方を伝授する場面から、物語は始まります。陽子はまず自分の作文のスタイルについて、こんな衝撃の告白をします。
「わたし、今まで作文に、ホンマのこと書いたことがないねん」
(p11)
素直な万寿はこれを聞いて、「「ひええっ!」といって、ベッドから1メートルも飛びあがっ」てしまいます。
陽子は作文の課題では常に「先生がよろこぶ」ほうの脚色されたものをちょいちょいと書いていて、本当のことは隠していました。今回の課題は将来の夢でしたが、先生にみせるほうはなれないことがわかりきっているけど大人には喜ばれるフィギュアスケートの選手で片付けようとしています。この陽子の頭のよさがおそろしいです。さらにおそろしいのは、陽子の本当の夢が人間国宝になることというわけのわからないものだということです。小学生離れした冷徹な賢さと、小学生っぽいぶっとんだ発想が同居しているところに、このシリーズの魅力があります。そんな小学生の世界をリアル(?)に描いている荒井良二のイラストも楽しいです。
さて、そんな陽子と万寿のクラスに、自分は「ケンタウルス座のアルファ星第3惑星」から来た宇宙人だと名乗る転校生が現れたところから、事件が起こります。
千福や陽子は、虚構と現実・物語、それぞれとの距離の置き方の作法を熟知しています。万寿や転校生はまだその域には達していません。この作品では物語に対する態度の違いが、子どもの成熟度を測る指標になっています。先に進んでいる陽子が転校生に向けるまなざしは時に冷酷ですが、思いやりに満ちている面もあり、それが救いになっています。