『ウェストール短編集 真夜中の電話』(ロバート・ウェストール)

真夜中の電話 (児童書)

真夜中の電話 (児童書)

ウェストールが生涯に残した80編以上の短編の中から、名編集者の上村令、翻訳者の原田勝・野沢佳織が18作を厳選した短編のうち9作が収められています。翻訳は原田勝。残り9作は野沢佳織の訳で秋に刊行予定だそうです。
読者が期待するウェストールらしさが凝縮された作品ばかりになっています。すなわち、爆撃機墓地に亡霊水死人じめじめじとじと訳あり美少女。こうして並べてみると、ウェストールの趣味に疑問しかわいてきません。
この中から特におもしろかった作品をいくつか紹介します。

浜辺にて

サウォーク州サウスウォルドで家族と休暇を過ごす少年が、美少女と出会う話。休暇のグダグダ感や家族へのうんざり感がほどよく描かれています。そこへ美少女が登場し作中の空気が一変。このタイミングで海辺に出てくる美少女の正体なんて、考えるまでもありません。非常に端正なゴーストストーリーになっていました。

吹雪の夜

ウェストールらしからぬ、さわやかラブストーリーです。訳者あとがきでも、「ハッピーエンドで心温まる作品は、ウェストールにはめずらしい」と述べられています。ウェストール先生……。
無神論者でひねくれ者の少年サイモンが牧師の娘アンジェラに恋をする話です。ひねくれ少年と宗教少女という相性最悪の組み合わせがいいですね。サイモンほど厄介な性格でなくても、好きな女の子が自分との進展具合を逐一告解師に報告するなんて事態は、悪夢でしかありません。
こんな設定の話をハッピーエンドにまとめてしまうなんて、この作品を仕上げたころのウェストールは体調でも悪かったのでしょうか。いや、結末の語りのアレさから、語り手への疑いも生じてきます。素直にハッピーエンドと信じない方がいいかもしれません。

真夜中の電話

自殺志願者の電話相談を受け付けるサマリタン協会に謎めいた電話がかかってきます。電話の主は、自分はまもなく川に突き落とされて殺されるのだと訴えます。協会のボランティアは、電話の主を助けようと奔走します。雪・川・水死といった、寒くてしめったイメージがウェストールらしく、恐怖感を煽ります。これまた端正な怪談になっています。