- 作者: 市川朔久子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/01/23
- メディア: 単行本
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ということで、弱小部活ものです。顧問が新任のまったく頼りにならない先生だったり、美少女転校生が実は強豪校の経験者だったりと、お約束どおりの展開を楽ませてくれます。逆にいえば、中盤まではお約束をそつなくなぞるだけの作品になってしまうのではないかという懸念も持たれました。しかし、お約束の悪役に見えたやからが本格的に牙をむいてくると、物語は不穏になり、放送部が舞台であったことにも必然性がみえてきます。
放送部の武器は、言葉です。そのため必然的にテーマは言葉になります。
たとえば、美少女転校生の葉月は、うざい女子たちを「ドブス」と罵倒します。葉月が美少女なだけに、この罵倒は強力な破壊力を持ちます。しかし、言葉は関係性の中で力を持つものなので、この罵倒はのちに重大な脆弱性を露呈してしまいます。
このように、言葉をテーマにした作品だけあって、言葉の使い方が戦略的に練られています。そして最後は、市川朔久子らしくしっとりと感動的に物語を閉じてくれます。
「――おれはさ」
「大声出して人を黙らせようとする人間には、我慢ならないんだ」
「――声は、伝えるためにある。だれかを黙らせるためじゃない」
(p193)