『ナイアガラよりも大きい滝』(庄野英二)

ナイアガラよりも大きい滝 (赤い鳥文庫)

ナイアガラよりも大きい滝 (赤い鳥文庫)

カール・ルイスが新記録を出したロス五輪の話。カリブ海の島国アルプレロ共和国から3人の選手が派遣されていました。アルプレロ共和国は特産品がサトウキビとエビだけ*1という貧しい島国で、ひどい独裁者に支配されていました。3人は国の威信を賭けて育成された選手でしたが、オリンピックで芳しい成果を残せず、独裁者の制裁を恐れて脱走を図ります。ここから漂流生活が始まり、庄野英二らしいホラ話が始まります。
3人が乗ったいかだは備品が充実していて、庄野英二はそのすべてを列挙します。本だけでもこれだけ。

ホットケーキの作り方(本)、国際海上交通規則抜粋(本)、トランプ占い(本)、ロビンソンクルーソー漂流記(本)、コンチキ号漂流記(本)、フランスの実験漂流記(本)、タマゴ料理百種(本)、人は寝るのにどれだけの土地がいるか(トルストイの著作)

この列挙癖は作中何度も繰り返され、奇妙なおかしみを醸し出します。彼らは暇な漂流生活のあいだに、筏にあった『世界八十八カ国語会話の手引き』を利用して語学の勉強を始めます。ここでも、学ぶ言語をアルファベット順に列挙していきます。そしてたったの48日で26カ国語をマスターさせてしまいます。
やがて3人は、黄金で光り輝く島に辿り着きます。そこには様々な国籍を持った52人の少年少女がいました。彼らは3人に、これまたひどいホラ話を聞かせます。彼らの話は十五少年漂流記のパロディのようなもので、辛辣な文明批判が展開されます。そして最後の、「ナイアガラよりも大きい滝」というタイトルの謎が明らかになる途方もない光景は、開いた口がふさがらないような壮大なホラになっています。
庄野英二らしいわけのわからないホラ話ですが、政治色が強いためさらにへんてこな空気の作品になっています。

*1:そのエビ漁を行い加工もするエビ工船が超ブラック労働だという笑えないギャグも挟まれている。