『そうめんこぞう』(くぼひでき)

幼年・低学年向けの童話が名作になる条件のひとつとして、その年頃の子どもの欲望に応えることが挙げられます。幼い子どもの多くにとってもっとも切実な欲望は食欲です。神沢利子の『はらぺこおなべ』や小沢正の『目をさませトラゴロウ』など、食欲を極端に肥大した欲望としてエスカレートさせた作品は、名作として今でも読み継がれています。『そうめんこぞう』も、そんな極端な食欲をテーマにした作品です。
そうめんが大好きな女の子のもとに、色白のあやしい男が現れ、家のごはんを強制的にそうめんにする方法を教えてくれます。しかしこんなあやしい男がただの親切心で手助けをしてくれたはずがありません。やがて男は本性を現し、女の子は男と戦わなくてはならなくなります。
子どもが偏愛する食べ物がそうめんだというのが意外で、奇妙なおかしみを出しています。しかし、食欲に駆動されて生きる女の子のキャラクターは、さらに強烈な印象を残します。女の子と化け物の闘争は、善と悪との闘争ではありません。生存をめぐる根源的な闘争なのです。生きることの根源をめぐる問題が楽しく怖く描かれているので、子供に受けそうです。