『タイムストーリー 1週間の物語』(日本児童文学者協会/編)

1週間の物語 (タイムストーリー)

1週間の物語 (タイムストーリー)

1週間という時間をテーマにしたアンソロジー。1週間という時間から初七日を連想した作家が多かったのか、陰鬱で重い作品ばかり。一方で、短いように思える1週間という期間でこれだけの事を成し遂げられるのだという希望も描かれていて、大変読み応えのあるアンソロジーになっていました。以下、すべでの収録作を紹介します。

「白木蓮」(椰月美智子)

小学校の卒業式からの無職期間の1週間を描いた作品。私立の入試に落ちたために気持ちが冷え切っていた女の子が、卒業祝いにもらったスマートフォンを持って公園に行き、なんとなく自撮りを繰り返します。ささやかな日常の中でゆったりと気持ちを回復させていくさまが丁寧に描かれた、椰月美智子らしい良作になっていました。

東京オリンピックの1週間」(最上一平

2020年の東京オリンピックを前にして、前のオリンピックの時の出来事を洋介という老人が回想する話。洋介にとってその期間は、病で苦しんでいた父親が亡くなった期間で、オリンピックのことなど全然思い出に残っていませんでした。父が亡くなってから七日間、洋介と母は父の鉈を持って裏山にある墓に行き、杉の葉を集めて火を焚きました。美しい山の風景とともに喪の作業をしみじみと描いた、これも最上一平らしい良作になっていました。

「この世は夢」(森川成美)

ここから先はすべてホラー作品になります。「この世は夢」は、ロシア民謡の「一週間」のような夢の世界に迷い込んでしまった女の子の話。彼女は「この世はすべて夢」と口走るという罪を犯してしまったために投獄されてしまいます。となると、火曜日に入る「お風呂」の意味もああなってしまうわけで、これは怖い。

「おちちや」(後藤みわこ)

SFもミステリも得意な後藤みわこが、理詰めでホラーを書いたらここまで恐ろしいものができるのだという、著者の力を見せつけるようなすばらしい作品でした。ひいおばあちゃんが亡くなってからしばらくたったある日、まだ発音の不明瞭な3歳児の妹が、仏壇から「おちゅうじ」を「だいはっけん」してしまったことから、残酷な事実が明らかになっていきます。タイトルの「おちちや」にこめられた意味を次第に明かしていく手つきのいやらしいこといやらしいこと。最高に後味の悪い話でした。

「見せられたもの」(眉村卓

騎士(ナイト)という名前を付けられた少年が、異様な怪人の導きで1週間の探索の旅に駆り出される話。怪人が見せるヴィジョンがそれはもう絶望的で、眉村卓らしいシビアな作品になっています。