『空母せたたま小学校、発進!』(芝田勝茂)

空母せたたま小学校、発進! (ポップステップキッズ!)

空母せたたま小学校、発進! (ポップステップキッズ!)

芝田勝茂といえば、行き先不明のジェットコースターに乗せられているような、ぶっとばしたジュヴナイルSFでおなじみです。新作『空母せたたま小学校、発進!』も、芝田勝茂にしか書くことのできない異形の児童文学になっています。この作品で初めて芝田作品に触れる子どもは、いままで経験したことのない楽しい読書体験を得られるでしょう。
予算がないため河川敷に立てられた小学校が案の定台風で流されて、そのかわりに豪華客船が新しい学校として用意されることになるという導入部から、すでにぶっとばしています。しかもやってきた豪華客船は、どう見ても軍艦なのだから、まったく意味がわかりません。
作品世界は、旧日本軍の戦艦が登場する(しかも艦長が美少女化されている)ゲームがはやっているという設定になっていて、小学生も当たり前のように戦艦の名前を知っています。やってきた戦艦を見つけてこっそり乗り込んだ主人公の小学生4人組も、それが旧日本軍の航空母艦〈祥龍〉であることをすぐに見抜きます。しかも艦内では、ゲームに登場するのとそっくりな美少女艦長と出会うのです。
その後戦艦は豪華客船のかたちになります。戦艦を目撃したはずの人々はそのことに関して口を噤み、戦艦に関する記録も何者かに消され、学校の正体が戦艦であることは4人組のなかだけの秘密になってしまいます。やがて美少女艦長が転校してきて、4人組に思いがけない敵と戦う使命を与えます。
艦隊これくしょん』等、ミリタリーと美少女が結びついたエンターテインメントが流行している現状を認識した上でこの作品が執筆されたことは、twitter上の著者の発言からうかがえます。そうした現状の中で児童向けのエンターテインメントが進むべき方向を探るという、難しい挑戦がなされています。
芝田作品をある程度読んでいる読者であれば、過去の作品をなぞったとおぼしき場面が頻出していることに気づくはずです。『星の砦』『きみに会いたい』『進化論』……。
過去作を踏まえた上でこの作品を読むと、特に〈子どもたち〉の扱いが気になってきます。『進化論』で超能力を持った〈進化人類〉、『星の砦』で遺伝子操作で生まれた〈改善種〉と、芝田勝茂はSF的な想像力で未来の〈人類の子どもたち〉を描いてきました。それでは、この作品に登場する〈人類の子どもたち〉はどう理解すればいいのでしょうか。『きみに会いたい』の終盤の展開を参照した上でこの作品を読むと、過去の作品とはだいぶ違った道を模索しようとしているようにもみえます。
奥山恵が論じているように、「舞台に立つ」ということも、芝田作品の重要な要素です。*1この作品では、物語全体を舞台と化すようなある大仕掛けがなされており、その面からも深読みを誘います。
この作品で初めて芝田作品に触れる子どもは予想のつかないストーリー展開でもてなし、昔からの読者は過去作との類似点・相違点をみせて翻弄する、二重に楽しいエンターテインメントになっています。ストーリーがどう展開し、どのような思想が語られることになるのか、いまの段階ではまったく予想ができません。続編が楽しみでなりません。