『仮面の街』(ウィリアム・アレグザンダー)

仮面の街

仮面の街

2012年の全米図書賞児童文学部門を受賞し、ル=グウィンも激賞しているという、米ファンタジーとしては最大級の煽り文句をひっさげた新人作家の邦訳が登場しました。
ゾンベイ市という街に孤児を集めて下働きをさせている魔女グラバがいました。主人公は魔女に支配されている孤児の一人ロウニー。街で禁止されているゴブリンの仮面芝居の一座に出会ったロウニーは、魔女の家から失踪した兄ロウワンの行方に関わりそうな情報を入手し、危険な芝居の世界に接近していくことになります。
本を読み始めてまず目につくのは、魔女の造形です。移動する家に棲み、ニワトリのような脚を持っている魔女の姿からは、バーバ・ヤガーが連想されます。しかし、魔女の脚は歯車を使用した機械仕掛けになっていると、独自のアレンジが施されています。魔女だけでなく街の警備隊員の脚も機械仕掛けになっていて、ファンタジースチームパンクっぽさが融合したような興味深い世界設定になっています。
仮面や演劇・川の氾濫といったモチーフからはどうしてもアレゴリーを読み取りたくなりますが、それは二の次にしてかまいません。その前に豊かなイメージの奔流を楽しむべきでしょう。これは確かに、ル=グウィンが褒めたのもうなずける、力を持ったファンタジーになっていました。