『思春期』(小手鞠るい)

思春期

思春期

「未来は明るい」なんて、
「若さはすばらしい」なんて、
だれが決めたのでしょう。

内向的で学校が大嫌いな少女「わたし」の中学校生活を描いた作品。小説というよりも、かつて暗い少女だった著者が、過去の自分のような子どもに向けた書いた私信といった方がふさわしいような作品です。
章の切れ目ごとに手紙だかポエムだかのような短文が差し挟まれています。そのタイトルが「不安」「後悔」「劣等感」「秘密」「孤独」「嫉妬」「自己嫌悪」……。毎日朝は学校に行きたくないということばかり考え、夏休み前には「学校に行かなくてもいい! 行きたくない場所へは、行かなくていい!」と歓喜する、そんな暗い気持ちがわかる読者のみに向けて、この作品は書かれています。
主人公は名無しの「わたし」です。この「わたし」は、現在進行形の一人称のようでもあり、何十年も先の自分が過去を振り返ってる時制での「わたし」のようでもあり、あるいは、三人称的に使われている「わたし」のようでもあります。この混濁によって、学校でつらい思いをしている子どもを受け止める包容力のようなものが、作品に与えられています。
時代は著者自身の中学生のころのようです。スマートフォンもなく、暗い文学少女である主人公がはまる作家が吉行淳之介であるという時代の感覚を、現代の子どもがどう受け止めるかは未知数です。時代が違うからこそ悩みの普遍性は浮かび上がってきます。時代的な距離があるために、現代の読者は主人公の悩みを客観性を持って眺められ、過度に深刻に受け止めずにすむという面もあるかもしれません。
必要としている子のところに、ぜひとどいてほしい1冊です。