『ニレの木広場のモモモ館』(高楼方子)

ニレの木広場のモモモ館 (ノベルズ・エクスプレス)

ニレの木広場のモモモ館 (ノベルズ・エクスプレス)

高楼方子・千葉史子の姉妹コンビによる新作。
小学生5年生の転校生の小山モモは、自然観察イベントに参加するため、集合場所のニレの木の下に行きます。しかしそこには誰もいませんでした。しばらく待っていると、モモとそっくりな名前で隣のクラスに転校してきたばかりの小山モカ、地元民の小学4年生カンタがやってきますが、いっこうにイベントが始まる様子はありません。やがてカンタが集合場所の選択肢は実はふたつあって、〈ニレ〉の木の札がついているここと、地元民ならニレの木というとまずそこを思い浮かべるが、札には〈ハルニレ〉と書いてる児童館前の広場のニレの木があるのだということを明かします。慌ててそこに向かってみると〈ニレの木〉といわれたらみんながそっちを思い浮かべるのは納得できる巨大な立派なニレの木がありましたが、参加者たちはもう出発してしまったようで3人は取り残されてしまいます。途方に暮れた3人は、親切な児童館のおばさんにそそのかされて、なぜか壁新聞をつくることになり、ご町内の事件に関わっていくことになります。
この作品では友達と共同してひとつの活動をすることの楽しさがたっぷりと描かれています。新聞を作り始めたとき唐突にカンタが「ぼく、殺人事件の取材はちょっとこわいなあ」と言い出したり、親切な児童館のおばさんが子どもを見て「おいしそう」と言ったりと、高楼方子らしいデンジャラスさもちらっと顔をのぞかせていますが、そこはあくまでスパイス程度でとどまっているので安心して読み進めて大丈夫です。
モカのようなかわいくて優しい友達、カンタのような生意気で頭がいいけどどこか抜けている弟みたいな友達、リアリティを失わないレベルの愉快な人物造形がよいです。3人でわいわい言いながら工夫を重ねて新聞をつくっていき、だんだん関わっていく人間が増えていく過程の楽しいこと楽しいこと。
冒頭のエピソードが象徴的なように、この作品の登場人物はよく間違った選択をします。しかし、その結果は必ずよい方向に転がっていきます。そのため、作品世界には底の抜けたような幸福感が漂っています。高楼方子のデビュー作『ココの詩』(これもイラストは千葉史子)の主人公がなにをどうしても最悪の結末に向かっていったのとは対照的です。高楼方子の描く絶望は底が抜けていますが、幸福を描いても底が抜けるのです。