『さくら×ドロップ』(のまみ ちこ)

第1回小学館ジュニア文庫小説賞大賞受賞作。
小学館ジュニア文庫は、いままで主にまんがや映画のノベライズを出していましたが、2014年開始の南房秀久「華麗なる探偵アリス&ペンギン」シリーズあたりからオリジナル作品を出しはじめたようです。そしていつの間にか公募新人賞もはじまっていました。これから本格的にオリジナル作品を刊行する体制を整え、児童文庫戦争に食い込んでいく機をうかがおうというもくろみなのでしょう。
ジュニア文庫小説賞の選考委員にはちゃおとコロコロコミックの編集部が入っているので、おそらくその読者を意識した作品が選ばれるのでしょう。どうでもいい話ですが、『さくら×ドロップ』作中でフランス人に好きなまんがを聞かれた主人公に「『ちゃお』に載ってるマンガが好き」というふわっとした回答をさせて、あからさまに出版社に媚びてますアピールを入れるギャグは笑えました。
よしの町という小さな田舎町が舞台。英語が好きな小学5年生葉山さくらの父親が突然再婚し、イケメンの連れ子潤一と同居することになります。町内には生息していないタイプの東京から来たイケメンにクラスの派手系女子は騒然。さくらの親友のミサトやチエリも恋愛に興味を持ちはじめて、さくらの周囲の様子が次第に変わっていきます。
さくらは英語が堪能な潤一に導かれて、外国人の集まりとつきあいはじめることになります。東京・英語・外国人と、閉塞した田舎町には珍しいものへの憧れがよい感じに描かれています。外国人たちのたまり場を、自殺者が多いという噂のある寂れた団地に設定したことにも、たくらみが感じられます。近所なのに足を踏み入れたことのない団地にはじめて入り、高い踊り場から見える風景に驚くといった、さりげない場面が印象に残ります。
クラスの派手系女子との確執、明らかにさくらに片思いしている幼なじみ男子がいることなど、火種がいろいろ残っているので、今後の展開が楽しみです。