『大好き! クサイさん』(デイヴィッド・ウォリアムズ)

大好き!クサイさん (児童図書館・文学の部屋)

大好き!クサイさん (児童図書館・文学の部屋)

  • 作者: デイヴィッドウォリアムズ,クェンティンブレイク,David Walliams,Quentin Blake,久山太市
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2015/10/28
  • メディア: 単行本
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クサイさんはくさかった。ずっと前からくさかった。いまだかつて存在していた生物のうちでも、一番、てってい的にくさかった。激臭と言ってもいいくらい。(中略)もしこの本がこするとにおう本だったら、きっとみんなはゴミ箱に捨てるだろう。そして、ゴミ箱をうめる。地中深くに。

イギリスのコメディアンで、児童文学作家でもあるデイヴィッド・ウォリアムズの邦訳3作目。
クサイさんは路上生活者(自称・放浪者)で、とてつもない悪臭で周囲に迷惑をかけています。悪臭をビジュアル化したクェンティン・ブレイクのイラストが、それはもうまがまがしいものになっています。ひとりの少女がこのクサイさんに話しかけたところから、物語は始まります。「十二月二十五日だという理由だけで、幸せそうなふりをしなければならない」という理由でクリスマスを嫌っている少女だと紹介すれば、この作品の主人公クロエの抱えている孤独は伝わるでしょうか。社会からはじき出されたこのふたりの友情を軸に、ユーモアとペーソスにあふれた物語が展開されます。
クロエの大きな悩みのひとつは、極端に見栄っ張りの母親でした。この母親が下院議員選挙に立候補しますが、彼女には特に実績もコネもなさそうなので、当選の現実性はなさそうでした。ところがクサイさんの登場により意外な方向に話が転がっていって、にわかに彼女の政界進出が現実性を帯びていきます。
母親の唱える政策が狂っています。いわく、30歳以下の若者は夜間外出禁止。いわく、国歌演奏時は車椅子使用者も起立しなければいけない。いわく、テレビゲームは頭脳の浪費なので、午後四時から午後四時一分のあいだのみ許可する。いわく、路上生活者は追放。こんな感じの政策が20も列挙されています。こんな彼女が思いがけず表舞台にでてしまうことから首相までも事件に巻き込まれ、、社会風刺小説として大変笑える作品になっていきます。
しかしあくまで本筋はクロエとクサイさんの友情です。異邦人の導きで孤独な子どもの世界が開ける物語として読めば、非常に端正な児童文学になっています。