『ズッコケ熟年三人組』(那須正幹)

ズッコケ熟年三人組

ズッコケ熟年三人組

ズッコケ三人組」シリーズのセルフパロディ「ズッコケ中年三人組」シリーズが、三人組が50歳を迎える『ズッコケ熟年三人組』をもって完結しました。
最終巻で語られるエピソードは、age49のロマノフ王朝詐欺と開発計画の後始末と、同窓会を口実にしたハチベエの次期選挙のための決起集会、2014年に広島で起きた土砂災害を元にした話の3つに大きく分けられます。
土砂災害の話は自然災害なので、脈絡もなく理不尽に重苦しいエピソードになっています。死体の描写なども生々しいので、そういうのが苦手な人は注意が必要です。
そのほかのエピソードでわかるのは、結局彼らは地元の成功者のあいだで利権を融通しあう、内部の人だけはハッピーな、ずぶずぶの世界を作り上げてしまったということです。大人って汚い!
作中にはこの状況に異議を唱えるツッコミ役がいないので、読者は本当にこれでいいのか戸惑いながら彼らのふるまいを眺めることになります。あえてツッコミ役をもうけないのは、もちろん那須正幹の悪意です。
災害の爪痕は確実に残り、利権に溺れる大人の生臭い世界もそのまま続いていきます。たとえば、コネで出世の糸口をつかんだモーちゃんと、災害で家族を喪い職場での立場も大きく変わってしまった仕事仲間の関係が今後どうなるかなんてことを考えると、胃が痛くなってきます。
悪夢的な日常が悪夢的なまま続いてしまう恐怖を描いているという点では、『大当たりズッコケ占い百科』の結末を彷彿とさせます。那須正幹にきれいな大団円を期待するのは大間違いです。実に那須正幹らしく、ズッコケらしく、シリーズは完結しました。