『空母せたたま小学校 世界の謎はボクが解く!』(芝田勝茂)

ズッコケ山賊修業中 (こども文学館 (50))

ズッコケ山賊修業中 (こども文学館 (50))

夜の子どもたち

夜の子どもたち

那須正幹『ズッコケ山賊修業中』*1芝田勝茂『夜の子どもたち』*2。宗教の闇に踏み込んだ児童文学を考えるならば、80年代の代表作としてこの2作を外すことはできないでしょう。
おなじみズッコケ三人組がドライブ旅行中に迷い込んだくらみ谷は、土ぐもさまと呼ばれる神を信仰する人々が住む閉鎖された集落でした。「おうらみもうす」と唱えすべての災厄の責任を土ぐもさまに押し付ける奇妙な神事を行う土ぐも族の恐ろしい側面が徐々に明らかになり、三人組がシリーズ中でも最大級のシリアスな生命の危機にさらされるのが、『ズッコケ山賊修業中』のストーリーです。
『夜の子どもたち』では、八塚市という夜間外出禁止条例のある抑圧的な地域で、周囲の人が石化したように見えたという奇妙な体験をしたことから複数の子どもたちが学校に行けなくなる事件が起こります。その謎は、カレルピーと呼ばれる土着信仰の対象(?)の謎につながっていきます。
『ズッコケ山賊修業中』は統治システムという側面から宗教を考察し、『夜の子どもたち』はカウンセラーの青年を主人公にするという当時の児童文学としては斬新な設定で、心理学的側面から宗教の問題に取り組みました。どちらも理知的な方法論で宗教にアプローチしていますが、それだけでは掬いきれない闇の部分をあぶり出すことにも成功しています。
ということで、『山賊修業中』のくらみ谷と『夜の子どもたち』の八塚市は、忘れられない暗黒宗教地帯として、80年代中盤から90年代にかけて児童文学を読んできた読者の記憶に刻みつけられています。
しかし、2010年に刊行された『ズッコケ中年三人組 age45』で、くらみ谷がすでに崩壊していたことが明らかになってしまいました。でも、我々にはまだ八塚市が残されているのです。
世界の謎はボクが解く!―空母せたたま小学校 (ホップステップキッズ!)

世界の謎はボクが解く!―空母せたたま小学校 (ホップステップキッズ!)

「空母せたたま小学校」シリーズ第2弾には、八塚市が登場します。この作品はなにを書いても致命的なネタばらしになりかねないので、これだけ書いておきます。
この作品には、八塚市が登場します。
八塚市をトリガーとして、偽史・トンデモ・陰謀論が怒濤のように語られます。これこそが芝田勝茂エンターテインメントの真骨頂です。小学校が豪華客船で船艦というぶっとんだ導入から、物語はどこに着地するのか、まだまだ先は読めません。

「隊長。自分はときどき思うんですが、いちばんすごい話が、真実じゃないですか?」
「ばかね。それなら陰謀説がいちばんの真実ってことになっちゃうじゃないの」
「あ、ぼく、けっこう、陰謀説信じてるんですけど」
「それ、だめだよ。もうちょっとかしこくなってください。大人なんだから」
(p97)

*1:1984・ポプラ社

*2:1985・福音館土曜日文庫/1996年刊行のパロル舎版には大幅な改稿が施されている。