『逃げてゆく水平線』(ロベルト・ピウミーニ)

逃げてゆく水平線 (はじめて出逢う世界のおはなし イタリア編)

逃げてゆく水平線 (はじめて出逢う世界のおはなし イタリア編)

東宣出版の叢書「はじめて出逢う世界のおはなし」のイタリア編は、現代イタリアを代表する児童文学作家ロベルト・ピウミーニのショートショート集です。奇想天外な発想で軽妙に社会を風刺するような作品がたくさん収められています。
ナバラの決闘」は、禁止されてる決闘をしていた貴婦人が、これは剣を使って編み物をしてるのだといいわけをしたことから、《編み物式決闘》が貴族の間で大流行するという脱力ギャグ。「数の勉強」は、指を使った数の数え方を大人が子どもに教えているうちに、実は子どもの指の数が多かったということが明らかになるという、かなり危険な発想で差別者をバカにした作品になっています。
このように、奇抜だけど想像しやすい視覚的イメージでナンセンスを突破し、ファンタジーの底力を見せつけるのがピウミーニの持ち味のようです。
そういった意味で一番面白かったのは、「トウモロコシの中の老人」です。これは、トウモロコシの山のはいった納屋に立てこもってトウモロコシのパワーを吸い取ることで不老不死を手にした老人の物語です。老人を殺せないことに腹を立てた死に神が八つ当たりで暴れ回ったので、老人は周囲のみなさんにたいへんな迷惑をかけてしまいますが、それでも不死を手放そうとしません。しかし、難攻不落のトウモロコシの要塞が、まさにそれがトウモロコシであったために崩壊の時を迎えてしまいます。このあざやかな崩壊劇の爽快なこと爽快なこと。