「くるみの冒険」全3巻(村山早紀)

くるみの冒険1魔法の城と黒い竜

くるみの冒険1魔法の城と黒い竜

くるみの冒険2万華鏡の夢

くるみの冒険2万華鏡の夢

くるみの冒険3竜の王子

くるみの冒険3竜の王子

風早の街を守るローカル魔女っ子天野くるみの活躍を描いたファンタジー「くるみの冒険」が完結。1巻は2009年、2巻は2010年にフォア文庫童心社)から刊行されており、しばらく新刊が出ていませんでしたが、今年になって既刊と新作がハードカバー版で刊行され、めでたく全3巻でフィナーレを迎えました。
この作品の魅力は、作中に頻出する言葉を借りれば、「魔法っぽい」ところにあります。トランクの中の妖精国、たくさんの命を持つ妖精猫、風早の街を滅ぼそうとする巨大な闇色の竜、願い事を叶えてくれるという17年周期の彗星、それから、おいしそうなお茶とか、様々な植物でいっぱいの庭園とか。非日常の世界への憧れを体現するようなきらびやかなものがたくさん配置されている、宝石箱のような世界になっています。
そして、「科学という名の翼」も村山ワールドの「魔法っぽい」ものとして忘れてはなりません。世界中の魔女が人間のテクノロジーを介して秘密のネットワークを作っているという状況など、魔法にほかなりません。文明の負の側面は指摘しながらも、科学技術のすばらしさ、科学技術を発展させた人間のすばらしさをうたいあげるところも、村山作品の魅力です。
そうした「魔法っぽい」世界の楽しさ美しさをちりばめつつ、シリーズは祈りと幸福の物語としてきれいに完結しました。
正直なところ、これだけのシリーズがたったの3巻で終わってしまったことを残念に思う気持ちはあります。しかし、不思議とあまり寂しさは感じません。それは、風早という街が確固とした存在感を持っているため、語られることがなくても、くるみやケティが風早のどこかで活躍しているということは容易に想像できるからです。