『ぼくたちのリアル』(戸森しるこ)

ぼくたちのリアル

ぼくたちのリアル

第56回講談社児童文学新人賞受賞作。
5年生に上がったアスカには、クラス替えに関してひとつ大きな気がかりがありました。それは、学年1の人気者のリアルと同じクラスになってしまったことです。アスカとリアルは家が隣同士で幼いころから深いつながりがありましたが、地味なアスカはリアルに好意を持ちつつも劣等感も抱いていました。いままでたまたまクラスが離れていたことで心の平安を保てていたアスカは、今回のクラス替えに動揺します。そこに現れた転校生のサジが、どうもリアルに片思いをしてしまったようで、アスカの悩みは深まります。
ということで、幼なじみを取るか転校生を取るかというベタなラブコメを幼なじみの視点から描いたような物語になっています。リアルはラブコメの主人公らしく自分に向けられた好意に鈍感で、サジに対して気軽に「よく見るとすげぇきれいな顔してるねぇ?」と言ってみたり、持ち前のリーダー体質から体の小さいサジの保護者役を買って出てみかんの皮をむいてあげるくらい「カホゴ」にふるまったりと、罪深い言動を繰り返します。
サジはサジでけっこう腹黒い性格で、弱気なアスカの前では強い態度に出て自分の思い通りに動かしたりします。リアルに振られて不登校になった女子を学校に戻すためにサジが暗躍するエピソードは、ちょっと怖いです。このサジの性格により、ややドロドロ度が高いラブコメに仕上がっています。
リアルはコミュニケーション能力の化け物で、リアルの目の届く範囲では学級の平和はおおむね守られます。しかし、人気者であるがゆえに恋愛絡みのトラブルを招く面もあります。また、いかにリアルといえどもすべてに目が届くわけではないので、完全に学級を平和にすることはできません。リアルというカリスマ性を持つ子どもを物語の中心に据えることで、コミュニケーションの戦場としての学級の一側面を描き出すことに成功しているように思います。