『ダイヤの館の冒険』(マージェリー・シャープ)

「大好きなバーナード、おゆるしになって。」と、ミス・ビアンカはいいました。「いつでもあなたは、わたくしのいちばん心ゆるす友ですの。あなたのいもうとでありたいと、これまであなたに語ったのは、いくたびか――」

岩波少年文庫版「ミス・ビアンカ」第2弾。ねずみたちが運営する囚人救出ボランティア集団「囚人友の会」の今度の議題は、残忍な大公妃に誘拐され奴隷のようにこき使われている少女ペイシェンスの救出作戦でした。ところが、救出相手が小さい女の子だと知ったとたん男のねずみたちはやる気をなくしてしまい、今回の作戦は婦人部会のねずみたちが請け負うことになります。女ねずみたちが騒ぎを起こして大公妃の侍女たちを引きつけ、その隙にミス・ビアンカがペイシェンスの逃亡の手引きをするという作戦を実行しますが、侍女たちがおそるべき異形の怪物集団であったことが判明し、女ねずみたちは逃亡。ミス・ビアンカとペイシェンスは大公妃の館に取り残されてしまいます。しかも、体操教師をリーダーとする逃亡者たちが作戦は成功したと嘘の報告をしたため、誰もミス・ビアンカの救出に来ないという事態になってしまいます。事務局長ねずみのバーナードのみがミス・ビアンカの身を案じるなか、ミス・ビアンカは単身孤独な戦いを強いられます。
ミス・ビアンカバーナードが離ればなれになってしまっているというシチュエーションが、この巻の肝です。たったひとりで大公妃や異形の侍女軍団やブラックハウンド犬に立ち向かうミス・ビアンカは、ときどきバーナードのことを思って内心弱音を吐くものの、持ち前の機知と行動力で大活躍します。
一方のバーナードが今巻で披露するかわいさは反則級です。作戦前はミス・ビアンカが心配で女装して婦人部会に加わろうとして、あえなく当人に見抜かれてしまい、叱りつけられて追い返されるというあわれな献身を見せます。婦人部会の嘘の報告を疑い単身救出に向かうことを決意したバーナードは、「剣が二本、おのが二ちょう、短剣が三本、それから芝刈り機の刃の部分」という重武装をして身動きができなくなり、仕方なく武器の山を手押し車に乗せて移動することにします。その道中も、おばけキノコにはさまって立ち往生したりと、苦難が続きます。
ミス・ビアンカの担当するシリアスパートとバーナードが担当するギャグパートがうまく噛み合っていて、ふたりの再会の場面への期待がいやがうえにも高まっていきます。引き裂かれているからこそ、ふたりの絆の強さは尊く輝きます。
解説は荻原規子。児童文学で恋愛ものといえば彼女ですから、最適の人選です。

年若い読者には、そこまで設定してもわからないだろうと考えるのは、大きなまちがいでしょう。男女の機微を実際に知るのは何年か先の読者でも、そこに何かがあるというのは感じ取ります。個と個が慕いあう機微には、どんなに早くふれようと害があるはずはなく、真に理解できない年齢の子どもにとっても、この世に隠れている美しさと感じ取るはずです。少なくとも私は、そういう読者でした。
荻原規子解説「レディーの魅力」より)