『少年たちの戦場』(那須正幹)

少年たちの戦場 (文学のピースウォーク)

少年たちの戦場 (文学のピースウォーク)

戊辰戦争から沖縄戦までの少年兵をテーマにした短編集。どの短編も完成度の高さが異常で、那須正幹は小説を書くのが無茶苦茶うまいのだという単純な事実をみせつけられます。
第1話の「その名は無敵幸之進」は、餅屋の息子の幸助が思いがけない大手柄をあげ、高杉晋作から〈無敵幸之進〉という名前までもらっていくさにのめり込んでいくが、やがて破滅するというストーリーです。戦争を金儲けのチャンスとしかみない幸助の父親のリアリズムと、戦争の熱狂に巻き込まれる幸助の対比があざやかです。幸助の行動からは、戦争は楽しいのだというみもふたもない事実があぶり出されます。しかし、那須正幹の筆致はあくまで淡々としているので、その熱狂は客観視され、冷酷なまでにその愚かしさが暴き出されます。
「小説の自由と戦争小説の不自由」と題された古処誠二の解説も必読です。小説は自由なはずなのに戦争小説は反戦テーマだと思いこまれて自由な解釈がされにくいという問題を見据えた、興味深い論考になっています。