『紫式部の娘。賢子がまいる!』(篠綾子)

紫式部の娘。賢子がまいる!

紫式部の娘。賢子がまいる!

紫式部の娘の賢子が、母と同じく彰子に使えることになります。お約束のいじめに悩まされながら宮中での自分の立ち位置を探っていく賢子は、やがて中関白家(定子の父の道隆の一族)を貶めようとする偽の物の怪騒ぎに巻き込まれます。
目を引くのは、あまりにもゲスなヒロインの造形です。賢子はいじめにあうのは想定済みで、おとなしい母とは違い自分はちょっかいをかけてくる奴らはぶっ殺すという心づもりで宮中に乗り込んでいきます。そして、喧嘩を売ってきた相手の弱みを握って従えたりしてのし上がっていきます。一方、男あさりにも打ち込み、血筋や出世の見込みを最優先に周辺の貴公子たちの品定めをして、ターゲットを絞り込みます。中盤までは、ゲスでクズなヒロインが孤軍奮闘するさまを楽しめばOKです。
賢子がこのようなゲスに育ってしまった背景には、同情すべき事情もあります。賢子は、自分のような中の品の女は身分の高い男に遊び捨てられる立場でしかないことを知っています。そんな運命のなかで、同じような立場の女子たちとも競争しなければなりません。であれば、ゲスでクズになるのは、やむを得ない適応であるといえます。
しかし賢子は、自分が思っているほど孤独ではありませんでした。なにしろ賢子の親世代は、日本文化史のなかでもまれにみる黄金世代。ということは、周りを見渡すと同世代には、自分と同じように親のプレッシャーに押しつぶされそうになっている仲間がいくらでもいるのです。
同世代の女子たちと殴り合ったり助け合ったりするうちに、いつの間にか3バカトリオが生まれ、さらに仲間が増えてズッコケ探偵団が結成されます。クズどもが友情を深めて、やがて汚い大人の陰謀に立ち向かっていく流れには、非常に大きな爽快感がありました。