『女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険』(ブリタニー・カヴァッラーロ)

女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険 上 (竹書房文庫)

女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険 上 (竹書房文庫)

女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険 下 (竹書房文庫)

女子高生探偵シャーロット・ホームズの冒険 下 (竹書房文庫)

アメリカのシャーロキアンYA作家による、学園ホームズパロディ小説。ワトスン博士の末裔ジェームズ・ワトスンは、ロンドンからアメリカの高校に転校し、ホームズの5代目シャーロット・ホームズとの運命の出会いを果たします。しかし、高校内で殺人事件が起き、「まだらの紐」などの初代ホームズが手掛けた事件を模倣したと思われる怪現象が続発し、ホームズは有力な容疑者になってしまいます。そこから当然のようにモリアーティ家との因縁もからんできて、運命を仕組まれた子どもたちの苦難が始まります。
ワトスンはホームズと出会う前から、ホームズと相棒になりふたりで冒険をする夢想をしていました。ワトスンにとってホームズは、実在する空想上の友だちだったのです。さらにホームズは、作品のホームズパロディという趣向から、ホームズというキャラクター性をあらかじめ背負わされています。メタレベルと作中レベルで二重に幻想を背負わされているという仕掛けがおもしろいです。
ホームズはホームズなので、性格は気むずかしく、ワトスンは距離を縮めるのに苦労します。ワトスンの父が作成したホームズ介護マニュアルでは、まずアヘンに関する注意事項が記述されています。

〈ルール1 こまめにアヘンを捜索し、必要に応じて廃棄すること。報復はめったにされないが、されるとなると迅速で激しいので、鏡やグラスには愛着を持たないにかぎる〉
〈ルール2 アヘンを探すときにはいつも、ホームズのブーツの空洞になっているかかとから始める〉
(下巻 p34)

ホームズはホームズなので、薬物に耽溺していても、そんなもんだろうと軽く受け流されます。パロディの形式を取ることで、若者の薬物依存という問題から深刻さを軽減させているところに、ヤングアダルト小説としての戦略性が感じられます。
パロディの形式を利用してホームズの薬物依存や人格破綻という問題を軽やかに語りつつ、メタ的にホームズやワトスンというキャラクター性を背負わされている子どもがごく当たり前の子どもとして周囲から期待を背負わされて苦労しているさまも描いています。ひねくれた仕掛けがありながらも、ヤングアダルト小説としてきわめてまっとうな作品になっています。
シャーロック・ホームズという着ぐるみを着て虚無的な表情を見せるホームズを描いたカバーイラストは、作品の性質をうまく捉えていて秀逸です。