『Q→A』(草野たき)

Q→A

Q→A

5人の中学3年生の子どもたちが、学校や塾のアンケートに答えながら、自分の生活を振り返っていくという趣向の連作短編です。子どもには当然自意識がありますから、大人の用意する「仲のいい友達はいますか」「自分の親が好きですか」「現在おつきあいしている異性はいますか」などという質問に素直に答えるはずがありません。子どもたちの脳内で、建前と本音が火花を散らすことになります。そもそもたくさん書くのは面倒くさいから、字を大きめに書こうという小賢しい考えまでも拾っているところにリアリティがあります。ひとりの子どもが前半と後半で1回ずつ主役をはる構成になっているので、数ヶ月でのささやかな変化が可視化されます。なかなかうまい趣向を考えついたものです。
もっともおもしろいのは、中瀬義巳という男子が主役を務めるパートです。義巳は彼女のさゆりんへのプレゼントを手に入れるため、さゆりんになりすまして女性向けファンション誌の懸賞アンケートに答えます。彼女の思考に擬態することにより、さゆりんが義巳に向ける愛情が義巳がさゆりんに向ける愛情に比べて、著しく小さいという現実に向き合わざるをえなくなります。「あなたは彼氏と友達、どちらを優先させますか」という質問に脳内で「もちろん、さゆりんは友達優先だ」「一方、義巳はつねに、さゆりん優先」と即答する義巳の、不憫で笑えること。
他の短編も、思考を文章にする過程を経ることで、自分に対する認識や他人に対する認識のいびつさが明らかになる構造になっていて、読ませます。
また、女性の変質者による男子の性犯罪被害という、なかなか表に出ない題材を扱っているところにも、注目する必要がありそうです。